8bro

キャラメルプライベート

地図

引っ越してからというもの知人らに「そっちに遊びに行ったら案内してよ」と言われる。
けれど僕は人様を案内するだなんて、そんなことは到底できない。極度の方向音痴なのだ。
数年住んだ土地ですらままならず、あまつさえ生まれ育った地元でさえ怪しい。
店から出たらどっちから来たのか分からなくなるのは日常茶飯事で、会計を済ませて店員さんに「ごちそうさまでした」と言いながら出口と勘違いしてトイレの戸を開けたこともある。
このままでは駄目だ、せめて今住んでいる土地くらいは誰か来た時に案内できるようになろうと一念発起し、地図を描き始めた。

なぜ地図なのか。

世の中には一瞬道筋を確認しただけで目的地に到着できるほど道と方向に長けた人々がいる、しかも割とよくいる。

そういう人に方向音痴を治すコツを尋ねると彼らは一様に「今いる位置を上から見る感じで歩けばいいんだよ」と、のたまう。
しかし(僕が勝手に方向音痴仲間だと思っている)さまぁ~ずの三村さんも言っていたが、そんなこと言われてもさああああ?だって
三村「上から見たことねぇもん!」

どう言われても上から見る感じを掴み切れない僕はヘリを飛ばして指示を貰う訳にもいかないので、実際に自分で地図を書いて「上からみた感じ」を己の手を使って頭に叩き込むのが手っ取り早いのではないかという結論に至った。

そしてどうせなら今まで頭に溜めていたオススメのスポットを総決算した、それはそれは素晴らしい地図にしよう。
よく行く美術館から出発、ぐーーっと道を伸ばす。地図アプリを参考にしながら道を型どっていく。
動物園、いつも行く服屋、美味しかったカフェ、骨董屋、このスペイン料理屋はランチが1000円パンおかわりし放題、ここの喫茶は2Fが大抵いつも空いてて穴場。手芸物を買うならココ。
頭の中でバラバラになっていた情報が1つの紙の上に集約されていく様は心躍るものがあって、今のところ、なかなか捗っている。
今は下描きなので、チラシの裏を使ってどんどん紙を貼り足していって描き進め
ある程度の道筋が完成したら大きな紙に本書きする予定なのだが、これを作りながら僕はあることを思い出していた。

僕が中学生の頃、女子の間で「プリクラ帳」を作るのが流行っていた。

プリクラ帳というのは撮ったプリクラをとにかくノートにダーーーっと貼って、間にちょろっと絵やら文字やらを書くみたいな代物なのだけれど、それをどうしてもやりたかった僕はプリクラの代わりにチェキを使った「チェキ帳」を作っていた。

作ることが主というよりは見せ合うことが主という感じのもので、しかしどうせ作るなら凝ったものを作ろうと、雑誌を切り抜きコラージュしたり本気でイラストを描いたり、一緒に写っている友達が好きだと言っていたアニメキャラクターを模写したり。

しかし、そうやって1ページごとに悩んで作っている間に「撮ろー☆」と気軽に誘われ貼るべき写真が着々と増えていく、どうも作業が追いつかない。

たびたび友人達から「作っているなら見せてくれ」と言われたが「まだ数ページしか完成してないから」と堅物な職人ばりにその申し出を断り続け、相も変わらず念入りにレイアウトを考えたり時系列を気にしたりしている内に、僕は中学卒業を迎えた。

15ページほど完成したが残り数ページが未完成だったので結果ほぼ誰にも見せないままそれは御蔵入りとなった。
めっちゃ凝ったが故に、製作途中のまま日の目を見ずに没したのだ。
敗因は明らかに、自分の作業スピードを見誤った上での【凝りすぎ】だった。
あの悲劇を繰り返してはならない。
しかし今回の地図製作の、リサーチ・細かい道描写・増え続ける情報・下書き→本紙へ本書き(色塗り作業込み)の流れは、あの悲劇を彷彿とさせるではないか。
気合を入れてコツコツ作れば作るほど脳裏をかすめる「一生完成しないんじゃね?」的な念。
では、ゆるくてお洒落な感じの「色鉛筆で一発描き風」な作風で最初から本書きに着手すればよかったのか?
否、やはり完成度を高めるためには下書きを踏まえて本書きに入りたいし、下書きをすることによってデフォルメすべき点も見えてくるもんだし

ああ これ完成しなさそうだなあ…